「健康増進・園芸福祉の里」イベントに参加して
2003年11月6日
小 原 茂 幸
▽機会があって、群馬県倉渕村で行われた「健康増進・園芸福祉の里」イベントに参加しました。
倉渕村は高崎市から約30km。国道406号線にある人口4800人ほどの村です。
日本で最初にクラインガルテンを開設したことで有名な村でもあります。
私がこの村を初めて訪れたのは昨年6月のことでした。
前回は通過しただけでしたが、たまたまお昼を、権田の「リクおばさんのお蕎麦」で頂きました。
再びこの地を訪ねることになった不思議さを感じました。
この度は、日本園芸福祉普及協会専務理事の近藤龍良先生が、
駒ヶ根市が主催した「花とみどりのサポーター養成講座」の講師としてみえられた事がきっかけとなりました。
「園芸福祉の里」イベントには群馬県、埼玉県、新潟県、長野県などから25名の参加者と5名ほどのスタッフが集まりました。
夫婦三組、親子三組、小学6年生から60代の方まで、老若男女が参加しました。
▽初日は午後1時に、倉渕村クラインガルテンに隣接する、くらぶち相間川温泉ふれあい館に集合し、
イベントの説明後、健康チェック(血圧と脈拍、以後一日3回チェック)。
リーダーが紹介され(高崎市から来られた元市議会議長さんの敬ちゃん)、
参加者は全員が愛称で呼びあう事になり、すなわち、ちゃん呼びをすることになりました。
続いて、倉渕村で開業医をされている、医学博士の塚越先生の講義をお聞ききしました。
「人類は、文明史以前は森の住人であった。森の中で生活してきた遺伝子が今も脈々と培われている。
森は木々が発散するフィトンチッドや滝や霧などから発生するマイナスイオンなどで、
免疫力や抵抗力を高め、元気にしてくれる環境がある。
現代人はテクノストレスに常に苛まれているが、ストレス解消には、温泉浴、森林浴などが効果的である。
文明がどんなに発達しても、人間にとっては森が故郷です。」たいへん良いお話でした。
▽続いてクラインガルテンのログハウスにチェックイン(一棟4人から5人、男女別)。
その後、広場に集合して車座になり、それぞれに竹を材料にナイフでマイカップ、マイ箸を作りました。
マイカップは首にぶら下げるように紐でテグス結びにされ、常に持ち歩き、
お酒を頂いたり、水を飲んだり、乾杯をしたり、そして記念品になりました。
次いでリーダーの健ちゃんによる名前覚えクイズ。
これは車座になった全員で柔らかいボールを、名前を呼びながら投げ合う事でした。
和気藹々のうちに数名の名前を覚えました。
▽その後、ウォーキングをしながら、フラワービレッジ倉渕生産組合のビニールハウスを見学し、
たんぼ道を抜け、林の中の小道を通って、相間川にかかる吊橋へ。
この吊橋は高低差があり階段になっている珍しいものでした。
相間川は岩魚の魚影も見えるほどの清流です。その後、福祉センターを見学。
デイサービスセンターと温泉施設が一体になった効率的な施設でした。
ここで所長さんのお話、近藤真奈美先生の園芸福祉概論の講義をお聞きし、
更には横須賀市のイベントから戻られたばかりの村長さんのご挨拶も頂きました。
ログハウスに戻る頃には夜の闇が覆っていました。
▽夕食はクラインガルテンのバーベキューハウスでの焼肉大会。
倉渕産の野菜や猪のお肉など、豚汁や、おにぎり、漬物。お酒は各自、自販機から購入して乾杯。
炭火で焼いた珍しい焼肉にしばし舌鼓を打ったのでした。
敬ちゃんの指導の元、「静かな湖畔」の大合唱(とっても静かとは言えません)。
更に場所を移動してキャンプファイヤー。
消防署の許可も取られて、都会ではもちろん、田舎であってもなかなか体験する事のできなくなった、
木の燃える炎をしっかりと見つめました。
新潟のお酒「八海山」、焼酎の「南蛮」が振舞われ、和やかな時間が過ぎていきました。
やがてちょっと太目の月が山に沈む頃に、キャンプファイヤーの火は消されました。
その後、温泉にゆっくりつかり、更に一部の方々は一つのログハウスに集まり、夜遅くまで懇親を深めたのでありました。
▽翌日は朝7時に集合。マイクロバスに揺られて、権田地籍にある東善寺へ。
古い歴史を持つ曹道宗の禅寺です。ここで坐禅を組む体験をし、ご住職の法話に、宗教的な感銘を受けました。
更にご住職のお話は、小栗上野介のお話へ。日本の歴史に隠された秘話でした。
官軍を西軍とよび、斬首された川原の顕彰慰霊碑には、
あえて「偉人小栗上野介 罪なくして此処に斬らる」と記された背景には、
歴史の荒波に翻弄され、才能がありながら若くして歴史の闇に消されていった郷土の偉人に対する、
残された者の無念の心が刻まれていました。
講話の後は、精進料理、赤米、お寺のお大黒による自家製の味噌、
倉渕村で取れた野菜、近くの豆腐屋さんの手作り豆乳(黒胡麻入)など、まさに地産地消。
大変美味しく頂きました。
▽再びマイクロバスで移動し、原田さんちへ。ここでは炭出しを体験。
一晩焼いた後の炭焼き釜から取り出された大きな木炭。
原木は、なんと梅。聞けば中国産の安い梅におわれ、採算が合わなくなったため梅林を泣く泣く切り倒したものだそうで、
それを聞いた途端にため息が出てしまいました。
早秋に良い香りを漂わせ、梅雨には丸まるとした実をつけたであろう梅園。
直径40cmはある沢山の大木が伐採されて炭となったのでした。
▽ついで、小栗家の悲劇にまつわる姉妹観音を山中に訪ね、合掌。
相間川の岸をしばしの沢下りを体験した後、昨日見学した福祉センターへ。
蕎麦打ち体験が待っていました。自家製のお蕎麦で昼食です。
お師匠ははるばる北軽井沢から2時間かけてこられた上州喜庵・雨過山坊の蕎麦の達人。
専門家はやはり手さばきや包丁使いが違います。
参加者の中には主婦業の日頃の包丁捌きを披露される方もいらっしゃいましたが、
ほとんどの方は、なれない手つきで四苦八苦しながら、ギャラリーに囲まれて、緊張しながらの体験でした。
師匠の手直しもあって何とか様になり、美味しい手打ち蕎麦をご馳走になりました。
▽引き続き午後は、アルピニストで元教育長をなされていたと言う原田さんのご指導の元、
軽い運動をして、山へ藤ヅル取りに。
急坂を懸け上がり、尾根筋まで息を切らせて登ると、藤ヅルを採取しながら順次、山を下ったのでした。
ツルは大小、長短、太く細く様々で、高いところはスタッフが木に攀じ登り、
高枝切りを使い、鉈や鎌、鋸を使って、悪戦苦闘しながらツルを採取したのでした。
私は集合場所に辿りついたところでお借りした鋸を落としてきた事に気付き、
都合3回、峰まで登り隈なく探したのですが見つかりませんでした(ごめんなさい)。
参加者全員が一番疲れたのは、この催しだったようですが、全員が参加して一人の落伍者も無く無事帰還しました。
▽ログハウスに戻るとさっそく温泉で汗を流し、苦労話に花を咲かせました。
この日は夕方4時頃から2時間ほど自由時間があり、ログハウスの仲間でしばし、駄弁りを楽しんだのでした。
夕食はふれあい館で、五穀米、山芋、倉渕産の野菜や果物でスローフードをご馳走になりました。
夜は再びキャンプファイヤー。
きしくも参加されたご夫婦のうち二組の結婚記念日が当日と翌日ということで、
全員でご夫妻を祝福いたしました(お酒と炎のなせる技か、私は久しぶりに「愛の賛歌」を熱唱してしまいました)。
高く燃え上がる炎を見ながら全員でショートスピーチ。
全員で合唱。歌声は夜のしじまをぬけて相間川のせせらぎの中に溶け込んで行きました。
再び温泉につかると、次から次へと繰り広げられる、なれない体験にバタンキュウで夢の中へと吸い込まれていきました。
▽最終日の三日目は、朝風呂を楽しんだ後、朝7時半に集合。
「森の中の合唱団」を編制し、野道を歩いて山の中へ。
歌集にある歌をすべて歌い、輪唱し、合唱し、森の静けさをしばし破ったのでした。
相間川で、せせらぎを鑑賞すると、ふれあい館で朝食。
▽やがてログハウスをチェックアウトすれば、体育館に移動して、いよいよ最後のイベント、ツル籠作りに挑戦しました。
昨日苦労して採取したツルに、梅の木の輪切りや炭、青竹等を使用し、
フラワーヴィレッジで栽培された数種類の花を飾りました。
私は藤ツルだけを幾重にも幾重にもくみ合わせ、釘や紐を使わずに何とか作品に仕上げる事ができ、
しばらく忘れかけていた、物を造ることの楽しさを思い出したのでした。
▽昼食はハーブをふんだんに使った手料理、手作りパン、手作りスープ。
全て地の物で美味しく頂きました。青天井で車座になり、みんなで食事をすることの喜びを味わいました。
全員総出で片付けると、再びふれあい館へ。最後の健康チェックとアンケートに答え、参加者全員が感想を述べました。
さらに先生方のお話をお聞きし、校歌の変わりに「ふるさと」を合唱して予定通り午後3時に解散。
日常から非日常への体験が終了しました。
▽敬ちゃんとの約束どおり、農産物センターで野菜を買い求め、
地酒屋さんで新酒を買い求めると、雨と霧の地蔵峠を越えて、倉渕村を後にしたのでした。
かなりハードなスケジュールでしたが、満足感に疲労感はつき物です。
癒されたというより、活力を頂きました。明日からの「日常」で、何があっても元気に生きていこうと、思いました。
スタッフの皆様、クルーの皆様、たいへんお世話になりました。
ありがとうございました。至れり尽せりのスタッフの方々と、様々な年齢、体力差がある仲間だったからこそ、
感動も多かったように思います。心から御礼申し上げます。感謝です、合掌。
「門前の小僧さん」による「ようこそ倉渕村へ」サイト内に掲載があります。
「健康増進・園芸福祉の里」2003.11.1(初日)
「健康増進・園芸福祉の里」2003.11.2(2日目)
「健康増進・園芸福祉の里」2003.11.3(3日目)
■[感想] 21世紀は環境の時代と言われています。
大量生産、大量消費、大量廃棄のシステムでは、森林破壊、Co2の大量発生、オゾン層の破壊、地球温暖化など、
環境破壊が急速に進むものと予測されています。
他の生物に生き難い環境はやがて人間をも生きられなくすることでしょう。さらに平行して、
人口爆発、食糧難、飲料水不足、特にわが国では人類史上初めての少子高齢化社会を迎えようとしています。
人間の「幸せ感」を、消費型社会から体験型社会に、
自然破壊型社会から自然循環型社会に構造変革する事が求めらています。無限の世界から有限の世界へ、
競争社会から共生社会への転換です。
▽誰もが考える「健康で快適な生活」、これはややもすれば「便利で効率的な生活」に置きかえられてきた感がします。
人間は地球上に生息する生物の一種です。
生きていくためには「水と空気と食」が不可欠です。
特に食に関しては、自ら食するものを自ら判断して食さないと、
自らの命が危ない時代になりつつあります。
抗生物質、成長ホルモン剤、防腐剤、農薬などの過度の使用により、
個々においては安全の基準を満たしているとはいえ、
長期に蓄積して摂取する事に、安全の保証はありません。
古くから医食同源という考え方があります。健康と食には密接な関係があります。
「何をどう食するか」が問われています。
▽人類はもともと、森の民であったと言われています。
文明5000年の歴史以前には、森の中で生きていくことが当たり前の世界でした。
すなわち私達のDNAの中には森と共存してこそ健康を維持できるシステムが組み込まれています。
ところが、ここ数十年、文明社会の発展とともにストレス社会が進みました。
森から離れた事に起因するものと考えられます。
過剰なストレスと過労は多くの病の根源となっており、
また人間自らが持つ、自然治癒力、免疫力を妨げる要因ともなっています。
▽現代社会において、安全安心の食の確保と、ストレスにどのように対処するかが大きな課題となってきました。
食については、安全安心の観点から、地産地消、旬産旬消が理想とされつつあります。
また、動物性蛋白から植物性蛋白への転換が、今あらためて日本食が見なおされています。
正しい食について学ぶこと、食農教育が大切な時代になりました。
ストレスへの対処としては、「癒しと元気」が求められています。
森林浴と温泉浴、美しい景観には癒しの効果があります。
精神的なストレスには適度の運動を、肉体的なストレスには精神的な安らぎを。
▽さらに、人間の手の平と、足の裏には多くの「つぼ」が集中しています。
すなわち手を使う事と、歩く事が生命維持の機能の中に積極的に作用していると考えられます。
「手仕事とウォーキング」の重要性。
森から離れ、肉体労働から開放され、文明というカプセルに擁護されるなか、
身体を動かす事や、普段使われることが少なくなりつつある五感を、園芸と言う場において、
フルに活用させる営みが再認識されています。
▽世界規模で進む市場経済という競争社会において、
どのようにして健康で快適な生活を確保するシステムを構築して行くかは、大きな課題となってきました。
自給率40%、農業従事者の減少と高齢化。農地と森林の荒廃。
輸入食糧の増加。製造業の空洞化と雇用の減少。
益々求められる癒しの空間、日常から非日常へ、
園芸福祉の観念には、これらを解決する大きな要素が含まれていると考えられます。
■倉渕村「園芸福祉の里」への考察
@安全な食
・医食同源(精進料理、ハーブ料理など)
・地産地消、旬産旬消(バーベキュー、東善寺、ふれあい館の食事、蕎麦うち)
・食農教育
A手仕事
・手を使う(マイカップ・マイ箸作り、つる細工、蕎麦うち)
・農業体験(炭だし)
・クラフト(つる細工)
B歩く(ウォーキング)
・散歩
・遠足(山歩き、沢登り、)
C癒し
・温泉浴(相間川温泉)
・森林浴
・だべり(気のあった仲間)
・五感への刺激(美しい景色・花を見る、安らぎの音楽・せせらぎを聞く、良い香りを嗅ぐ、触れる、味わう)
・非日常(ログハウス)
・炎、キャンプファイヤー(炎を囲む)
・宗教的な体験(東善寺での坐禅)
D元気(活力)
・歌う(森の合唱団、キャンプファイヤーでの合唱)
・大声を出す(合唱)
・行動する
・歴史・文化に触れる(東善寺、小栗上野介)
Eコミュニティー
・達人のお話(塚越ドクター、近藤先生、蕎麦打ち名人、アルピニストの原田さんなど)
・リーダーの存在(元高崎市議会議長・敬ちゃん)
・スタッフ(裏方としてのサポーターの方々の活躍)
・様々な仲間(クルー・同じ船に乗る仲間・小学6年生から60代まで、親子3組、夫婦3組など多彩な仲間がかもし出す雰囲気)
F美しい景観、癒しの風景
・豊かな自然、
・日本の原風景(農村風景)
(S.Ohara)
■「倉渕村」関連サイト
倉渕村(公式サイト)
フラワービレッジ倉渕生産組合
くらぶち相間川温泉
倉渕村総合福祉センター
ようこそ倉渕村へ
東善寺
日本園芸福祉普及協会
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